ユタ州南部の日常

ユタ州南部での隠居生活

ないものねだり

義母は、私の顔を見ると「あれが食べたい、これが食べたい」と言い始めるようになりました(笑)。私の顔から食べ物が連想されるのでしょうか(笑)。

不思議なのは、いつもその場にないものを要求するのです。義母が繰り返し食べたいと言ったもの (クリーム漬ニシン、オリーブ瓶詰、チーズ、サラミ、ギフィルタフィッシュ瓶詰、野菜入りクリームチーズ、赤ピーマン瓶詰、等々) は、センターの冷蔵庫に買い置きしてあります。ところが、そんなものはもう見向きもせず、毎日食べたいものが変わります。

おとといまでロールキャベツ、ロールキャベツと繰り返していた義母なので、きのう作って持って行きました。ところが義母は私を見た途端「ストロベリーアイスクリームはどうした!?」と訊くのです。「ロールキャベツを持って来ましたよ」と言うと「あとで食べる」と食欲のなさそうな顔をして、それより「ストロベリーアイスクリームにストロベリーシロップをかけて食べたい」と言うのです。義母は甘いものはそれほど好まず、たとえ食べたとしてもストロベリー味など好きでなくチョコレート味が好きだったので、老いて認知症になると好みが変わるのか、と思いました。

ストロベリーアイスクリームは近くの店ですぐ買えましたが、ストロベリーシロップが見つかりませんでした。仕方なく苺ジャムを買ってそれを掻き回してドロドロにしてアイスクリームにかけてあげました。義母はアイスクリームを二口三口食べると、お終い。暫くすると「ベーグルのトーストが食べたい」と言いました。前日買ってきた時は少しも食べなかったのに...。仕方なく、ベーグルを買ってきてセンターのキッチンでトーストしてあげました。入れ歯が合わなくて、トーストはよく噛み切れません。結局8分の1ほど食べてお終い。

しばらくして義母は「おまえはピッツァを食べたことがあるか?」と訊いてきました。来たな(笑)と思いましたが「ありますよ」と答えると「どのピッツァが好きだい?」と訊きます。「プレーン」と答えたら、義母はその意味がよく分かりません。それで「マルガリータ」と言い直したら「お前の言うことは分からん...。ほうれん草のピッツァがあるんだ」と言いました。

ウッ、困った、もし、ほうれん草のピッツァを買って来いと言われたらヤバイぞ、とヒヤヒヤしてました。すると義母は「一切れの半分のピッツァ」とボソッと言いました。私はただ笑顔でうなずいていました。義母は「ミエコ、いま私の言ったことが聞こえたか!?」と言うので「ハイ、聞こえましたよ」と答えると「じゃあ、言ってみろ」と言うので「一切れの半分のピッツァ」と答えると「うん、そうだ」と義母は私を見つめます。私は知らんふりして微笑みました。すると「TODAY!!」と強い調子で言って私を睨みました。「明日じゃなくて今日だよ!!」つまり、今、買ってこい、と言いたい義母なのです。私は「アイスクリームを買いに行ったし、ベーグルも買いに行ったでしょう。もう今日は外に買いに行きません」とキッパリ言うと、義母は静かに諦めてくれたので、ホッとしました。喚かないのはアリセプトが効いているのでしょう。

私が帰ると言うと義母は「私をヒモジイ思いにさせて、一人にするんだね」と言います。ひとに罪の意識を与えようとする狡猾な手を使うところは、とても認知症とは思えませんな(笑)。さてと、今日、ピッツァを持って行っても食べないだろうなあ。