アイダホ州の温泉の旅(4)山道と馬

歩いて簡単に行ける温泉を先に訪れましたが、これから行こうとしているスタンレー温泉は少し険しい道を行くらしいのです。ガイド付で丸1日馬で行くコースがあり、それを頼んでおきました。往復10マイルの山道だそうです。

ところがこの日、朝から雷雨で「初心者が馬で行くには道も糠ってチト危険かも知れない」と馬主から電話がありました。相棒が「馬が雷を恐がるのですか?」と訊いたら「馬は平気ですよ」とアッサリ言われ、つまり素人の私たちが危ないのだと言いたげだったと相棒は言っていました。馬で山道を行き、途中で馬から下りて険しい山道を歩かなければ温泉に着けないらしいのです。シェリーという馬主の忠告を素直に受け、スタンレー温泉へ行くことは諦めました。半日だけ馬で平たい山道を散歩することを勧められ、そうすることにしました。

事務所を兼ねた馬主の家に行くと、シェリーはまず「私のクーガに会っていってください」と言うので、てっきりクーガという名の犬か猫のことだと思って案内されるままに家の中に入りました。するとそこには中型のクーガの剥製がありました。シェリーが近くを散歩していたらこのクーガが出てきて、危険を感じたシェリーが銃で仕留め、それを友人が剥製にしてくれたのだそうです。かなり美しいクーガで、ちょっと可哀相な気もしましたが、シェリーも命の危険を感じなければ殺すことはしなかったでしょう(写真はとらなかったので、参考までに借り物を貼りました)。

さて、踵があいているクロックスを履いていた私をみて、シェリーが「馬に乗るのにそれでは...」と困った様子をみせましたが「これしか持って来なかった」と言う私に仕方なさそうに諦めていました。小雨が降っていたので、シェリーはレインコートと貸してくれようとしましたが、私は父の形見のウィンドブレーカーを着ていたので、それで充分と断りました。すると今度はカウボウイハットを貸してくれました。丸顔の私はカウボウイハットは似合わないですが、シェリーは「なかなかいいわよ」っとお世辞を言ってくれました。

厩はシェリーの家から少し離れたところにありました。相棒と歩いていくと、キャシーという痩せたガイドさんが待っていました。フロリダに住んでいたというキャシーですが、それにしてはかなりの南部訛りがあります。まず、私の足の短さに合わせて鐙(あぶみ)の吊革の長さを調節してくれました。「あんた背丈はどのくらいね?」とキャシーが訊くので158センチの私が「ファイブ・スリー」(5フィート3インチ)と答えると「う〜ん、そういう小さい人、一度あったっけな」と言われてしまいました。問題は背の低さでなく私の足の短さなのです。短足なので大きな馬の背に跨(またが)ると足が馬の腹の上にきてしまいます。キャシーは吊革を一番短いところに合わせてくれました。

私が馬に乗るのはこれで4度目。初めて乗ったのは日本です。馬方さんが馬を引いてくれたので「自分で乗った」と言えるかどうか。しかし馬の背に乗ったことは乗ったので、それが最初ということになります。2度目はアリゾナのインディアン村に行くため、断崖絶壁の細い山道を老いぼれ馬で下りた時。3度目はアイスランド。そして今度が4度目。まだまだ背の高い馬の背にホイッと自分で跨ることはできないので、初心者の域をでません。

初心者だとどこでも老いた馬をあてがわれます。若い馬だと力負けしてしまうからでしょう。今回、私の馬、ジェイクは18歳とかで、かなりの爺さん馬です。相棒の馬ビスケットは9歳。ジェイクは歩き始めてすぐオナラをして、そのあと脱糞していました。するとビスケットも同じことをしました。老いると人間も馬も同じみたいです。

そのあと、私たちの馬は道端にある草を口でむしって食べ始めました。キャシーは近くの木の枝を折ってムチを作り私にくれました。「言う事を聞かない時はムチ打ちしていいのよ」と言われましたが、肩の痛い私は力がないので打っても痛くないらしく、ジェイクは平気で草をムシャムシャやり続けました。それでも何とか歩いてくれるので、私はジェイクのやりたいままにさせていました。(写真の中央が相棒とビスケット)

キャシーは私が野生のベリーが好きだと知ると「とっても美味しいスモモの木がある」と教えてくれて、その木のところに来ると、赤い実をたくさん取って私にくれました。甘くて美味しい小さなスモモです。(写真では黒い実に写っていますが、実際には濃い赤の実です)

ゆっくり、ポックリポックリ2時間ぐらい歩いたところで平たい草むらに着きました。そこで馬から下りて少し休みました。自分で馬から下りる努力をした私ですが、なんせ足が短くて地面に届かない。軽くひっくりかえって地面に背中をつけましたが、草むらだったので身体を痛めることはありませんでした。そこで写真を撮り、ジェイクとビスケットに採ったスモモを少し上げたら美味しそうに食べていました。

帰り道、老いぼれジェイクが時々、突っかかって転びそうな歩き方をするのです。「なんじゃ、私が重くて歩けないとでも言うのかや?」と肥満体の私はちょと罪の意識にかられ、乗りながらジェイクの肩の辺をマッサージして上げました。「もうちょっとだからガンバレやあ、ジェイク」と言いながら転びそうになるたびにマッサージをしてあげたら、私の思い込みかも知れませんが、ジェイクもまんざらではなさそうでした。

ようやく厩に戻り、もう一度一人で下りる努力をしてみた私です。今度はうまく下りられました。朝会った時は知らん顔していたジェイクとビスケットですが、2頭とも、特にビスケットが親しみのある目を向けて私と別れを惜しんでくれました。