ユタ州南部の日常

ユタ州南部での隠居生活

義母との半日

この書き込みも長いですが切り分けはしません。

義母がこの7月半ばに骨折してからずっと、相棒と二人で、病院とリハビリセンターへ毎日訪れていました。相棒の場合、クライアントに対し責任重大な厳しい仕事なので、ただでさえ時間がないのです。睡眠時間を減らして母親のために時間をとっていましたが、仕事に集中できず、同僚に迷惑がかかることに困惑した相棒は、昨日から仕事に集中することにし、義母を訪れるのは私一人ですることにしました。

義母は三日前に病院からまたリハビリセンターに戻りましたが、昨日の朝7時ごろセンターから、「(義母が)ベッドからすべり落ちた」と電話してきました。特に身体に問題はないとセンターの人は言うのですが、念のため、昨日午後早めに義母の様子を見に行きました。義母は朝食も昼食も拒否して寝込んでいるということでした。

私が行くと、電気が消され、ブラインドが半分以上閉められた暗い部屋のベッドで目を閉じている義母は「助けて、助けて、誰か助けて...」と小声で繰り返していました。私が挨拶すると目を開けましたが、私が誰か分かっているのかいないのか、ただ「体中が痛い」と文句を言いました。

義母の部屋を少し楽しくしようと思い、白とピンクの大輪の牡丹の花を中心に紫とピンクにまとめた豪華なシルクフラワーを買って持って行きました。義母に見せて「きれいでしょう?」と訊いたら、義母は少しも嬉しそうな顔をせず「花が私の痛みを消してくれるのかよ」と憎まれ口をききます(笑)。「花は痛みを消さないけど、気持良くなるでしょう?」と言ったのですが、どうも身体が痛い様子の義母に花束は役に立たなかったようです。

義母は「肩が痛い」と言いました。いままで肩が痛いと言ったことはないので、もしかしたら朝すべり落ちた時に打ったのかも知れないと思いました。義母の様子を見に来た医師の卵のような若い女性に「肩が痛いと言っているのですが、朝どのようにすべり落ちたのか説明してくれる人はいませんか?」と訊くと、その人は私を見ず、義母に向かって「レントゲンを取りましょう」と言って出て行きました。私が、買ってきたスープを義母に飲ませていたので、その人は私を私的に雇われた世話係だと思ったようです。しかし、もし世話係であったとしても無視するのは失礼だなと思いました。

義母は少し落ち着いてきたのか、花を整えている私に「きれいな花だね」と言いました。そして急に空腹を感じたのか「ホットドックとベイクドビーンズとポテトパンケーキが食べたい」と言いました。義母は言ったことをすぐ忘れるだろうと思っていた私ですが、いつまで経ってもホットドックとベイクドビーンズを繰り返します。相棒と電話で話す義母が「このあと、ホットドックを食べるんだよ」と言っているのを聞いて、私は外にすっ飛んで行きました(笑)。ベイクドビーンズは手に入りませんでしたが、ホットドックをやっと買って戻ってきました。義母はそれを美味しそうに、パンは半分残しましたがソーセージは全部食べました。私が「お水は?」と訊くと「いらないよ」と義母。嚥下の支障もないようなので、私の方が驚いたほどです。

義母が「ポテトパンケーキはないのか」と言うので「残念だけど買えなかった」と私が答えると「冷蔵庫にあるじゃないか」と言うのです。義母は自宅に居るつもりなのです。「冷凍庫に入ってるから、それを暖めてよ」と言うのです。ウーンと考えた私は「明日、私がフレッシュなのを作ってくるよ。私のポテトパンケーキ、好きでしょう?」と言うと、義母はニヤッとして「作るの面倒くさいだろう?」と柄にもなく遠慮するような態度をみせました。「面倒じゃないよ」と言うと嬉しそうな顔しました。

暫くすると今度は「クリームソーダが飲みたい」と言いました。ク、クリームソーダ!? かなり古い飲み物。しかし、そこでワタクシ合点が行きました。義母は80年前の自分に戻っているのです。子供のころ、コニーアイランドのボードウォークを歩きながらホットドックとクリームソーダを味わった時のことを思い出しているのでしょう。また私が外へすっ飛んで行ったことはお分かりと思います。ところが、クリームソーダなんか飲んだことのない私はお店のクーラの中を探しても見つかりません。親切なお店の人が探して見つけ出してくれた時は「ありがとう、ありがとう」と何度もお礼を言ってしまいました。

その後、フィジカルセラピストが来て、やはり私のことを「世話人か?」と訊くので「ウハッ、あなたも...私は義理の娘です。彼女は私の義理の母」と言うと、照れくさそうに「いや、その、世話係のように世話しているから、つい」と弁解していましたが、有色人種が付添い人の仕事をしていることが多いので、ついそう思い込んでしまうのです。人種差別でなく確率の問題だと私は分かっていますが、間違えた人は人種差別だと誤解されることを恐れています。

レントゲンのテクニシャンが来ると、義母は「触るな、痛い、出てけ」とガミガミ怒鳴り始めました。最初は義母を納得させようとしていたテクニシャンも面倒になったらしく、泣き喚く義母を無視して強引にレントゲンを撮ってしまいました。(今日、その結果が分かり、肩には異常がないことが判明しました。)

それから義母はトイレに行きたいと言うのでセンターの世話係が来ました。その人も、やはり私をプライベートに雇われた世話係だと思ったようで、「オムツか?便器か?歩いてトイレに行けるのか?」と私に訊くのです。驚いた私は「なぜ私にそんなこと質問するのですか?このセンターで世話しているのだから、そちらでそういうことは知っているはずですよ」と言うと「いや、私はこの人を初めて扱うから知らないんです。ナースセンターに行って訊いてきます」と言いました。その後、義母はこんなオムツは嫌だ、別なものを持って来いと騒ぎ立て、私に向かって「私の言ってることが分からんのか、このバカが。私の息子は何とバカな子と結婚したもんだわい」と言うので「ハイ、私はバカですよ」と返事すると「なんだい、もう一度学校へ行け!」と切り返す義母で、笑ってしまいます。

興奮し始めるとドンドン悪化する義母は、そのあと女医さんが来ても喚き通しで、女医さんは呆れ顔。最初、やはり私を世話係だと思って無視していた女医さんは、私が義理の娘だと分かるといろいろ質問してきました。しかし、この人ホントに医者かね、と思うくらい分かっちゃいない医者でした。中年というより老年にかかった感じの女医さんで、もう少し知識を持っていてもいいと思うほど老人の扱いを知りません。なんでこんなに痛い痛いと喚くのか、理解に苦しむという態度。医者のくせにLBD症を知らないのか(笑)と言いたくなりました。

ギャーギャー喚いていて、やっと痛み止めのタイラノールをもらった義母は少し落ち着き、「んじゃ、帰るよ。明日ポテトパンケーキ持ってくるね」と言う私の手にキスして「ありがとう」と言いました。マザーインローよ、老いるってことは辛いねえ。