ユタ州南部の日常

ユタ州南部での隠居生活

O. Henryと白アスパラガス

十代の半ば頃、私は短編を読み漁っていました。長編は嫌いでした。話を膨らませる脚色が私には邪魔でもどかしく、数人の登場人物の名前を憶えるのも面倒で、何より「さっさと結末へ行けや」と思ってしまうためでした。

長編でも『赤毛のアン』は好きでした。毎日の様子が短編風に終わるので、私の気持が収まったのだと思います。

当時読んだ短編作家で今思い出せるのは星新一、オーヘンリー、芥川龍之介、太宰治、北杜夫など。遠藤周作もクソ真面目なものでなく、狐狸庵爺として書いていたふざけた短編を読みました。

若い私は O. Henry というスッキリ洗練されたペンネームに惹かれました。作風もコスモポリタンで、当時の未熟な私の外国への憧れにスポッとハマりました。

最近、ウィキでオーヘンリーのことを調べたら、彼がコスモポリタン風だったのは旅が好きだったのではなく、逃亡生活を余儀なくされたからだと知りました。米国で使い込みをして逮捕され、保釈中に国外へ逃げ出したのだそうです。そして、私がカッコイイと思ったペンネームも、逃亡後、国に戻って実刑を受けて刑務所にいた頃、そこにEtienne Ossian Henryという人がいて、その人の名前の一部を借りたらしいということです。

事実を知ると幻滅することが多いので、何事も深く調べない方がいいかも知れません。

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オーヘンリーの短編集の中に、題名は忘れましたが、白アスパラガスに憑かれた男の話がありました。この話に特に惹かれたのは、その男の心情を表現するオーヘンリーの描写が素晴らしく、白アスパラガスが如何に素晴らしいものであるか、未熟な私はすっかりこの貧乏男の気持を汲んで深く同情したためだと思います。

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話の前後は憶えていないのですが、お金を一銭も持っていない男が通りすがりのレストランの窓からふと目にしたのが白アスパラガス。彼はバターで焼きあがった太く柔らかいアスパラガスが頭から離れず、とうとうレストランに入ってソレを注文してしまう、という話でした。

結末さえも記憶に残っていないのですが、私にとっては白アスパラガスと男の心の描写だけでもこの短編が充分成り立ってしまうものでした。当時、読んだのは日本語に訳した本でしたが、原語の英語で読むとどんな印象になるかなと、ふと思いました。

当時、乾物屋で白アスパラガスの缶詰を見つけ、キノコを思わせる縦の繊維がトロッと溶けてフワァと甘い味がした、という記憶があります。でも、その時から私は「もっと太くて柔らかくて、もっと美味しい、オーヘンリーの短編の中にあるような白アスパラ」を今日まで夢見ていました。

つい最近知ったのですが、ドイツでは「白アスパラガス祭り」があるのだそうです。4月中旬から6月中旬ぐらいまでが収穫期。なぜ米国人であるオーヘンリーが白アスパラに対してドイツ人のような情熱があったのか知りたくなりました。ウィキには書いてありませんでした。

あ、アスパラガスを食した後の尿の臭いが嫌だという人がいるようですが、薬のような臭いなので私は特に気になりません。