ユタ州南部の日常

ユタ州南部での隠居生活

Lucky (2017) 観ました

Lucky (2017)

f:id:nykanjin:20171011110711j:plain

今年9月に91歳で亡くなったハリーⅮスタントンの最後の作品。

トボケたドラマ。

顔は髑髏(どくろ)に近く、身体も骸骨に皮膚を被せただけの骨川筋衛門の老体ではありますが、長いセリフを覚え、力強く歩くスタントンの姿は90歳を過ぎているとは思えません。

主人公が第二次大戦で海軍のコックであったこと、沖縄戦を経験したこと、最後まで独身であったこと、歌が歌えること等々、スタントンの自伝のような作品です。「兵士でなくコックだからラッキーだと渾名を付けられた」などセリフに出てくる冗談は多分スタントン自身のものだと思われます。

朝起きてコーヒーを飲み、ストレッチ体操をし、外に出て馴染みの食堂でクロスパズルをしながら朝食、そして散歩、家でもクロスパズル、夜は馴染みのバーでブラディマリーを飲む、というのがこの老人の日課。家の中で、クロスパズルをしていて分からない言葉があると老人はどこかに電話を掛けて相談するのですが、受話器の向こうの相手が観客には最後まで不明のまま。この辺のシーンは若い人にはスロー過ぎるかも知れません。

ネタバレの1つになりますが、あるメキシコ人の一家のパーティに招かれた老人が、スペイン語で静かにVolve Volveを歌い出すのです。90歳の老人にしては上手だと思ったら、スタントンは私生活でも自分でバンドを組んで歌手をやっていたと後で知りました。

「一人で居ることと孤独とは違う」「死ねば、あとはただの無だ。魂などというものはない」という主人公。老いた頭に過(よぎ)る恐怖を克服しようとする姿勢を見せます。

うすらトボケたジョークがそこかしこにあり、私たちのようなシニアには可笑しみがあって面白かったです。

f:id:nykanjin:20171011111259j:plain

私がスタントンという役者に気付いたのは「ストレートストーリー」という1999年の作品。最後のシーンにちょっと出るだけなのですが、スタントンが顔で一瞬の演技をします。自分の死期を知った兄が最後に弟(スタントン)に逢うため何日もかかって遠くから乗って来たオンボロのトラクターを見つめる目。「アレに乗ってきたのか...」 それがあまりにも心に沁みたのでとても印象に残りました。