ヨイショの思い出

「ドッコイショッ」とか「ヨイショッ」というのは私の口癖なのですが、この言葉が出るたび思い出すことがあります。

重いものを持っていて置いた時に「ヨイショッ!」自分の重いお尻で座る時も「ドッコイショッ!」と言って座ります。「ドッコイ」や「ヨイ」までが小さい声で「ショッ!」というところが強く出ます。

昔々、30年近く前、弁護士事務所で働いていた時のことです。事務所には、弁護士たちがミーティングをする時、コーヒーを入れたりサンドイッチを注文したり後片付けをしたりするメイドが雇われています。

他の秘書たちは職業に自負がありメイドの仕事はメイドにさせていましたが、私はそんな自負がなかったものですから、ボス(私が付いた弁護士)に言われるままにコーヒーでもサンドイッチでも用意してエッチラオッチラ応接室へ運んでいました。私のボスは何でもスムーズに事が運ばないと気が済まない人で、メイドに頼んでいると遅くなったり間違ったりしてストレスが溜まるため、できれば私にやって欲しいといったので、そうしていたのです。

ミーティングのメンバー数は、5〜6人から10人ぐらいのこともあり、コーヒーの用意もサンドイッチの注文もかなり重労働。サンドイッチは各人が違うものを頼みます。パンの好み(白、ライ麦、パンパニコルpumpernickel等)、トーストにするかそのままか、マヨ入りかマヨなしか、マヨなしでマスタードか、トマトやレタスを加えるか、などいろいろで皆がみな遠慮会釈なしに注文してきます。

例えば、私のボスが「ナコワースト(knackwurst)サンドイッチ」と注文した時、私はそんなサンドイッチは初耳で分からないまま発音だけでメモを取り、そして「オニオンスライス、マヨなしでマスタードだけ、パンはライブレッドのトースト」とボスは構わずドンドン言ってきます。コーヒーの好みもそれぞれで、ブラックのほか、ミルクはハーフアンドハーフ、全乳、脂肪2%牛乳とか、砂糖は普通のもの、ダイエットのピンク、ブルーとか、うるさかったです(笑)。

コーヒーやティーはミーティングの前に揃えておき、サンドイッチはミーティングの最中にボスが私を呼んでみんなの注文をとってくれといいます。

当時、私は気が付かなかったのですが、ボスは、よく働く私のことが得意だったようです。かなり大きな事務所でしたが、こんなことまでする秘書は居ませんでした。私はこういう雑用も書類の仕事も一所懸命やってました。その見返しにボスは毎年昇給をたくさんしてくれました。

ある日、10人近い人数のミーティングが終わり、テーブルの上を片付けて、大きな大きなお盆にカップや皿などを入れてキッチンに持って来た時、重かったのでつい「ヨイショッ!」と言ってお盆を置きました。すると、近くに若い秘書が一人いて、その若い子が咳払いをしたのです。その咳払いは私の言ったことに対する抗議の咳払いでした。というのも、その女の子は「ヨイショ」の「ショッ!」だけが聞こえたらしく、それが英語の悪い俗語の「クソッ!」とか「畜生」という言葉に音がソックリだったのです。

その女の子は、私が嫌々メイドの仕事をしていると思ったらしいのです。「あーそじゃない、そーじゃない」と弁明すればよかったのですが、引っ込み思案の私は、英語で説明するのが面倒くさかったので誤解されたままにしておきました。それがいまでも引っかかるのです。あの時、ちゃんと日本語の説明をしてあげればよかった、と思うのです。まぁ、その女性に2度と会うこともなかったので構わないのですが、なぜかいまだに弁明しなかった自分を悔やむのです。

皆さんも、米国を訪れた時、気をつけて「ヨイショッ!」と言ってください。「ヨイ」の方に力を入れ、「ショ」は軽く、軽く言ってください。