ユタ州南部の日常

ユタ州南部での隠居生活

市内の行き倒れ

武漢コロナ禍の中、感謝祭の木曜日も静かに過ぎ、特に何事もなく週末を終えようとする日曜日の夜でした。クォモ州知事もデブラジオ市長もレストランを9時か10時までに閉店するよう制御しているので、私たちは5時ごろ早目の夕食に出かけました。

辺りは暗くなっていました。私たち夫婦はアップタウンの東77丁目あたりをゆっくり歩いていたのですが、少し様子のオカシナ人が目に留まりました。フーラフラしているのです。まるで目眩(めまい)がしているかのようにバランスがとれなくて足元もおぼつかない白髪の男性、老人と呼ぶには少し早い年齢でしたが、もう一歩も前に進めないようなのです。痩せていてずり下がるスボンを上げようとしているのですが、それも出来ない様子です。それでも暫く立って何とか歩こうとしている男性に、少し頭の狂った麻薬患者みたいな浮浪者が何か話しかけ始めたので、相棒が堪らず傍によってその白髪の男性に大丈夫かどうか声をかけ浮浪者を追っ払いました。その男性は大丈夫だと言ってまた歩き始めたのですが、顔を上に向けてフラフラしていてとてもじゃないが大丈夫とは思えません。

私たちは暫く見守っていたのですが、男性は閉まっている店のウィンドウに寄り掛かったまま動けなくなっていました。その男性、多少みすぼらしい服装のためもあってか、よくある酔っ払いか麻薬患者のように思われたらしく誰も助けようとしません。私がみるにそういう人ではないような気がしました。

それで相棒がまた声をかけました。すると、角を曲がればすぐ自宅があると男性は言います。しかし、自宅に着いてもこの状態は尋常ではないです。私たちが救急車を呼んだら、その男性は少し安心したのか、私の方に頭を仰向けに崩れ落ちるように倒れてきました。私はその男性の頭を押さえてコンクリートの歩道にぶつからないようしっかり持っていました。とても痩せていて足は倒れた時に折れ曲がったまままっすぐになりません。

その人は「自宅はすぐそこだからそこまで行けばいい」と力なく言うのですが、相棒が医者に診てもらった方がいいとアドバイスしました。すると男性も「医者に診てもらった方がいいのかなぁ」と言っていました。救急番号にかけると「心臓病があるのか?」「呼吸はしているか?」と色々訊いてっくるので、特に心臓発作のようではないと伝えました。脳神経に問題がありそうでした。

私たちが救急車を待っている間に色々な人が来て大丈夫かと訊いてきました。ある若いカップルの男性がこの白髪の男性を起こそうとしました。でも力がなくて起きられません。「飲んだのか?」と若者が訊くと白髪の男性は「あぁワインをちょっと」と答えたので「ああ、酔っ払いだよ」と言って若いカップルは行ってしまいました。酔っ払いの態度とは違うと私は思うのです。私たちが立っていると傍のレストランの人が出てきて様子を訊いてきました。人が倒れているのに何もしないでいたことに負い目を感じたようです。

少しすると救急車がきたので後は救急員に任せましたが、救急員も酔っ払いではないかと思っているようです。そうでないことが分かってもらえるといいと思います。それ以上私たちに出来ることはありませんのでそこを離れました。その白髪の男性がよい治療を受けられることを祈るしかありません。知らない人をちゃんと助けるには私たちは度量が足りないようです。

後で私が、男性はズボンがずり下がってしまうのを何とか上げようとしていたことを言うと相棒が「多分、ずっと服を買っていないのだろう。痩せてしまっても今までの服を着ていたのでずり下がってしまったのだろう」と推察しました。それを聞いたら何かこみ上げるものがあってなりませんでした。